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令和2年度 第73回卒業式 学校長式辞

 浅い春のやわらかな風に、ようやく膨らみかけた桜のつぼみが心地よさそうに揺れています。この春のよき日に、本校の卒業式を多数の保護者の皆様のご出席を頂き、かくも盛大に挙行できますことを、深く感謝申し上げますと共に心よりうれしく思います。皆様には、この日をもって母校を巣立って行く267名の卒業生たちの姿を、温かく見守っていただければ幸いに存じます。また、卒業生の保護者の皆様には、お子様の教育の大切な時期を本校に託してくださり、誠に有難うございました。お子様方は、高等学校における所定の学業を無事修了し、本日卒業証書を授与いたしました。お子様のご卒業を慶び、教職員を代表しお祝いを申し上げます。

 卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。皆さんひとりひとりに心よりお祝い申し上げます。いよいよ母校・橘高校に別れを告げ、それぞれ新しい世界に向かって旅立つ時が来ました。皆さんは、今、3年間の様々な思い出が、走馬灯のように頭の中を駆け巡っているのではないでしょうか。 思い返すと、皆さんの高校生活はとても変化の激しい、誰ひとり予測のできなかった3年間となりました。平成30年4月に入学した皆さんは、高校生活の途中で、時代が「平成」から「令和」に変わることを経験しました。大学入試改革の初年度のあたった皆さんは、様々な制度の変更に振り回されました。そして、新型コロナウィルス感染拡大です。3ヶ月間にわたる臨時休校、2度の緊急事態宣言、インターハイや甲子園大会・文化部のコンクールの中止など、どれをとってもいまだかつて誰も経験したことのない出来事でした。私は皆さんの入学式で、皆さんが生きていくこれからの時代を「これまで経験したことのないような変化の激しい時代を迎える」と話しましたが、まさにそれを先取りするような、変化の激しい日々でした。特に、最上級生としての今年1年間は、新型コロナウィルス感染拡大防止の学校生活の中で、大切なものを失った人も多かったかと思います。しかし、そのような日々の中でも、皆さんは最上級生として、新しい形の歌合戦や体育祭など素晴らしい活動をつくってくれました。苦しいなかでも、橘高校の長い伝統を受け継ぎ、それを後輩に引き継ぐことができた皆さんのこの3年は、十分に誇ってよいものだと思います。よく頑張りました。そして、この変化の激しかった3年間を過ごした皆さんは、より強くより大きく成長した、と私は信じています。皆さんのこのかけがえのない3年間の日々のなかに、皆さんの人生を支える「宝物」が沢山あるはずなのです。

 さて、本校を卒業し、皆さんは本当の意味で、自分の人生を自分の力で切り開いて行かなくてはなりません。先ほど述べたように、これから来る時代は変化の激しい予測不能の時代です。そのような社会の中で、皆さんが自分自身を見失うことなく生き抜くためには、どのようにすればよいのか。今日は、私から本校の生徒である皆さんに、最後のメッセージを送りたいと思います。
再び問います。「これからの時代、皆さんはどのように生きていけば良いのでしょうか。」
 たぶん、その問いを考えるとき、皆さんには「自分はいったい何者なのか」「自分は何をなすべきなのか」という切実な問題が突きつけられるでしょう。それは、今を生きる皆さんにだけでなく「アイデンティティの確立」や「自分探し」という言葉に代表される、古くからある青年期の大切な課題でもあります。皆さんも青年期の真最中、もうすでに一度や二度は、この問い向かい合ったことがあるのではないでしょうか。しかし、この問いは、時を置いて繰り返し皆さんに問いかけてきます。「君はいったい何者なのだ」と。とても難しい問いです。どうすれば答えが見つかるのか?
 その答えを探しに、青年はやみくもに「自分探しの旅」に出たり、手当たり次第に様々な本を読みあさったりします。それでも、見つけることはできない。実は、今の話は大学生だったころの私の思い出話です。今、思い出すと繰り返し一人旅に出たことも、何百冊も本を読みあさったのも、「自分とは何者なのか」という答を必死に探していたのかもしれません。もちろん、旅先にも本の中にも「本当の自分」などいるはずがないのです。では、一人旅も読書も意味がなかったのか。そうは思いません。私は一人旅や読書の中で、いつも孤独と向き合い、自分自身と向き合っていたのだ、と思っています。「自分自身とは何か」の答は、自分自身の中にしかない。孤独の中で、自分自身に向き合う以外に答えを見つけることはできないのです。寂しからいつも誰かといなくてはならない、と思っている人。SNSで多くの人とつながっていることが、価値だと思っている人。他者の中に自分を埋没させたり、他者との比較に一喜一憂するのはやめましょう。孤独を恐れないでください。孤独でなければ見つめることのできない自分が、自分の中にいます。そして、そこで見つめる自分は、過ぎた過去の自分でもなく、まだ見ぬ未来の自分でもなく、別の場所のいる自分でもない、「今ここにいる自分」だけです。答は、その中にあります。苦しくても「今ここにいる自分」を受け入れるのです。そして、それこそが皆さんのスタートラインになるはずです。

 そして、もうひとつが「自分はいったい何をなすべきなのか」という問いです。皆さんは今、高校卒業後の進路を選択し、その道に進もうとしています。むろん、それが「皆さんのなすべきこと」になってくれれば一番幸せなことでしょう。しかし、この問いも、時を置いて繰り返し皆さんに問いかけてきます。「本当にこれが自分のなすべきことなのか」と。どうすれば、この問いの答が出るのでしょう。
 実は、この問いに対する答えは簡単です。それは「自分以外の誰かのために」生きる、ということです。私たちは「自分のなすべきこと」を探す時、「自分のやりたいこと・好きなことは何か」だけからさがす人が多いようです。それが間違った方法とは言いませんが、いつでも正解が出るとは限りません。なぜなら、そこには「自分以外の誰かのために」の考えが抜けているからです。自分の行うことが「なすべきこと」とわかるためには、自分以外の誰かのためになっている、と感じる必要があるのです。私たちは、自分の存在や行動が他者からの感謝と承認によって「誰かの役に立っている」と思えたときにだけ、自分の価値を実感し、深い満足感と幸福感を得るのです。なぜなのでしょうか?それは、私たち人類のみが「他者とともに生きていく」という本能を持っているからです。私たち人類は、約600万年前にアフリカの草原に生まれました。他の動物に比べると、か弱いひ弱な動物。その人類が、今、こうして生き残り、繁栄をしている。それは、他の動物には決して持つことのできない「仲間のために生きる、協力する、共に生きる」という能力を有していたからだ、と多くの研究者が発言しています。私たち人類は「仲間とともに生きる」ことで、今日まで生き抜いてきたのです。「自分以外の誰かのため」に生きることが、「なすべきこと」と感じる理由がそこにあります。
 心理学者のアルフレッド・アドラーは、「自分以外の誰かのためになること」つまり他者貢献を「導きの星」と呼んでいます。「どんなに迷っていても、他者に貢献する、という導きの星さえ見失なわなければ、私たちは常に幸福とともにあり、仲間と共にある」と言っています。皆さん、「自分のなすべきこと」は、自分の中にはありません。自分のすべきことを見失ってしまったら、自分の外の世界をよく見るのです。皆さんのなすべきことを、待っている人がたくさんいるはずです。

孤独を恐れず、自分自身としっかりと向き会ってください。
自分の外の世界をよく見て、他者のために一歩踏み出して下さい

 これが、私が本校の生徒である皆さんに送る、最後メッセージです。「これからの時代、どのように生きていけば良いか」という問いの、ヒントになってくれれば幸いです。みなさんの生きていくこれからの時代は、変化の激しい予測不能の時代。しかし、いつの時代でも未来をつくって行くのは、皆さんたち若い世代です。SDGsの理念である「誰ひとり取り残さない」世界の実現のため、皆さんが「自分自身を見失わず」「自分のなすべきこと」を精一杯生きてくれることを期待しています。

 しかしときに、孤独になることや一歩踏み出すことにも、恐れ迷ってしまう事があるかもしれません。そんな時は、どうぞ母校に遊びに来てください。橘高校には、皆さんの人生の原点があるはずです。笑って、感動して、悔しくて、泣いて、せつなくて、でもいとおしいあの3年間を、教室で、図書館で、食堂で、グランドで、体育館で、思い出すことができるかもしれません。それこそが皆さんの「宝物」。橘高校で過ごした日々が、自分のスタートラインとチャレンジする勇気を、もう一度教えてくれるでしょう。

 私たちは、皆さんが卒業しても、母校としてずっと応援しています。だから大丈夫。自信をもって歩んでいってください。いよいよ、別れの時が近づいてきました。最後に、皆さんひとりひとりのこれからの長い人生に、「幸多かれ」とはなむけの言葉を送り、私の式辞としたいと思います。

令和3年3月6日 
川崎市立橘高等学校 校長 吉田 宏


式典音声抜粋


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